ま、なぜ「にっぽん文楽」なのか

「人形浄瑠璃・文楽」は、世界の様々な人形劇と比較しても、他に類を見ないほど高度な芸術性を持ち、ユネスコの世界無形文化遺産にも登録されている世界に誇るべき「日本のタカラ」です。

しかし本拠地・大阪での観客数の伸び悩みなど、取り巻く環境には厳しいものがあります。さらには、大阪府・大阪市から補助金削減策が打ち出されるなど、国立文楽劇場と共に文楽を支えて来た公益財団法人 文楽協会の経営状況 も厳しくなって来ています。このままでは、近い将来、文楽は存続の危機に晒される可能性もあります。
こうした状況を打開するためには、文楽の価値を広く日本人全般にアピールするような、これまでにない取り組みが必要となります。
私たちは、文楽の歴史を踏まえながらも、新たなプロデュース手法により、これまで劇場に足を運んで来なかった人たちもが注目するような公演を開催して行きます。
その結果、文楽の将来を日本人全体で考える機運を醸成し、長期にわたり存続して行けるような新たな体制を構築して行くための一助として行きたいと考えます。

さらには、文楽を通じ、日本文化の価値を再認識してもらうと共に、日本の「国家ブランド」の向上にも寄与することを目指します。
これらを実現するため、私たちは「にっぽん文楽プロジェクト」を設立します。

日本財団
会長 笹川陽平

っぽん文楽」のコンセプト

「文楽」と言えば、何か堅苦しいと思われがちです。
しかし本来は、庶民的な「娯楽」でした。歴史の積み重ねの中で、高度な技術に裏打ちされた芸術性の高い「芸術」となって行ったのです。その芸術性の高さは、チェコのマリオネット、ベトナムの水上人形劇、中国の布袋戯など他国の伝統的な人形劇と比べても、特異なほどです。その飛び抜けた芸術性は、「人形劇」という分野に分類するのを憚るほどです。
しかし皮肉なことですが、この芸術性の高まりが、人を遠ざける原因ともなっています。このままでは、文楽は、愛好家だけのものになってしまいます。
高い芸術性をそのままに、より多くの人たちに文楽を楽しんで欲しい―この願いから生まれたのが、「にっぽん文楽プロジェクト」です。

かつては、飲みながら・食べながら見るというのは当たり前のことでした。能でも「勧進能」などのようにイベント的な催しでは、相撲のように料理屋が出ていたほどです。
しかし今、多くの劇場で飲食は禁止されており、ゆったりと飲みながら食べながら見る、ということは出来ません。それならば本格的な移動式の野外劇場を作り、全国の人に、開放的な空間で、飲みながら・食べながら文楽を楽しんでもらおう、と考えました。これが「にっぽん文楽プロジェクト」のコンセプトです。

野外劇場は、文楽に負けないよう、「本物」を追求しました。舞台部分は銘木の産地・吉野から切り出された檜をふんだんに使い、伝統工法を受け継ぐ宮大工が手掛けました。随所に付けられた飾り金具は、確かな技術を持った職人たちが丹精込めて手打ちした物です。太夫・三味線が並ぶ「床」には本格的な「盆」も設けました。木製の縁台が並べられた客席を囲むのは、木綿の生地に本藍で「にっぽん文楽」の紋が染められた幔幕です。

間近で見て欲しい、と文楽人形の大きさに合わせ、客席は、僅か300席ほどにしました。もちろん、出演する技芸員は、現代を代表する顔ぶれが、交代で出演しています。
楽しみ方に決まりはありません。今までとは違った楽しみ方を提案することにより、文楽が幅広い人たちに支持される存在となると思っています。
日本人が守り育てて来た素晴らしい文楽という芸能が、これからも末長く続いて行くことを願ってやみません。

「にっぽん文楽」総合プロデューサー
中村雅之

総合プロデューサー中村 雅之(なかむら・まさゆき)

 1959年、北海道生まれ。法政大学大学院人文科学研究科修士課程修了。
横浜能楽堂館長。横浜市芸術文化振興財団理事、東京芸術文化評議会専門委員、明治大学大学院教養デザイン研究科兼任講師(文化マネージメント)などを兼ねる。
能から文楽・琉球芸能・雅楽・邦楽・声明まで幅広くプロデュースを手掛ける。食や工芸など日本文化全般にも詳しく、「引き出し」の豊富さで知られる。
数々の斬新な企画を生み出し、古典芸能の世界に新風を吹き込んだと評される。2008年には、プロデュースを手掛けた横浜能楽堂特別企画公演「武家の狂言 町衆の狂言」が文化庁芸術祭優秀賞を受賞。
また2006年から4年にわたり、世界的照明デザイナーの石井幹子を起用して最先端の都市空間と古典芸能との融合を試みた、「横浜あかりアーツコラボレーション」は、新しいスタイルのアートイベントを実現したとして大きな反響を呼んだ。
活動は、プロデュースのみに止まらず、脚本・演出、邦楽作品の作詞、執筆・監修まで多岐にわたる。著書に『古典芸能てんこ盛り』『英訳付き 1冊でわかる日本の古典芸能』(淡交社)、『伝統芸能を楽しむ 能・狂言』(偕成社)、『沖縄のこしたい店 忘れられない味』(誠文堂新光社)など。

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